内容 · 2014 〒464-0063 愛知県名古屋市千種区山門町2丁目 覚王山アトリエ
Crystal Mistral
手仕事の宝飾、名古屋から世界へ。
記事 · シルバー925 2026-03-23

シルバー925とK18を組み合わせるとき、職人が気をつけていること

シルバーとゴールドを一つの留め金に収めるとき、工房で何が起きているか。
小林 千晴
編集部
2026-03-23
金属板に複雑な模様を打ち込む職人のクローズアップ

シルバー925とK18を一つの作品に共存させることは、見た目の対比を生む以上に、金属工学的な判断を何十回も積み重ねる行為だ。Crystal Mistralでは2019年以降、バイメタル構造を持つリングとブローチを継続的に制作してきたが、そのたびに「なぜこの組み合わせはこんなにも難しいのか」という問いに返ってくる。ロウ付けの融点差、着用による酸化速度の違い、そして異種金属が接触したときに生じる電気化学的腐食——これら三つの課題は、それぞれが独立した問題ではなく、互いに連動して作品の寿命を左右する。以下は、そのプロセスを工房の視点から整理したものだ。

ロウ付けの温度差という根本的な制約

銀ロウと金ロウは、それぞれ融点の範囲が大きく異なる。一般的な銀ロウ(硬ロウ)の固相線は約630℃付近に始まり、軟ロウになると580℃以下で流動する。一方、K18用の金ロウは組成によって700〜800℃の範囲に分布する。同じトーチの炎を当てても、シルバー部材が先に熱を吸収して変形しかけるタイミングと、金ロウが流れ始めるタイミングがずれる。これが最初の壁だ。

Crystal Mistralでは、この問題に対してシーケンシャルロウ付けという手順を採用している。まずK18側のパーツをより高温の金ロウで接合し、その後に温度を下げた状態でシルバーパーツを銀ロウで繋ぐ。接合の順番を誤ると、先に完成した金側の継ぎ目が二度目の加熱で開いてしまう。順番の設計は、完成形の図面を引く前に決まっている。

加熱時間と冷却速度も変数になる。急冷すると銀は硬化し、ヤスリがけに適した状態になるが、隣接するK18継ぎ目に微細なクラックが入ることがある。徐冷すると金側は安定するが、銀表面に内部応力が残り、後工程のハンマリングで割れるリスクが上がる。二種の金属が互いに要求する条件は、多くの場合、部分的にしか重ならない。

接触面の設計と電蝕リスクの管理

異なる金属が直接接触し、そこに汗や雨水などの電解質が介在すると、電位差によって卑金属側が優先的に腐食するガルバニック腐食(電蝕)が起きる。標準電極電位の序列では、銀(+0.80V付近)と金(+1.50V付近)のあいだには有意な差がある。理論上、銀が陽極となって溶出し、金側はほぼ無傷のまま残る。着用ジュエリーの場合、腐食の進行は非常に緩慢だが、細い線材や薄い板材を使った繊細な作品では数年単位で目に見える変化になる。

Crystal Mistralがバイメタル作品の接触面に採用しているのは、ロジウムめっきによる絶縁介在層だ。接合部の銀側にごく薄い(0.1〜0.3ミクロン程度)ロジウム層を挟むことで、電解質の直接侵入経路を物理的に断つ。ロジウム自体は非常に安定した白金族金属であり、この厚みで電気的絶縁としては十分に機能する。ただしめっき厚が薄すぎると下地の銀が露出し、逆に厚すぎると接合強度が落ちる。0.2ミクロンを中央値とした管理幅の中に収めることが目安になっている。

接触面の設計は、見えない部分の設計だ。完成品には現れないが、10年後の状態を決める。

経年変化の速度差と表面処理の選択

シルバー925は空気中の硫黄化合物と反応して硫化銀を形成し、独特の黒ずみ(燻し)が出る。K18はその組成によって変化速度が大きく異なる。イエローゴールド(K18YG)は銅と亜鉛を含むため、長期的には赤みが増す方向に色調が動く。ホワイトゴールド(K18WG)はパラジウムやニッケルを含み、こちらは変化がほとんど見えない。同一作品に複数の金属が並ぶと、5年後の見た目は制作時の設計図とは異なる「時間の産物」になる。

この速度差を意図的に使う設計もある。燻し加工を施したシルバー部分が先に落ち着いた黒みを帯び、K18YGの温かみのある金色と年単位で深みを増していく対比は、新品時よりも着込んだ後のほうが豊かになる。ただしそれは偶然に任せた経年変化ではなく、初期の表面粗さ、めっきの有無、酸化促進処理の深さなどを計算した上で設計されたものだ。Crystal Mistralでは、この「10年後の色の予測図」を制作ノートに描いてから仕上げ工程に入ることが習慣になっている。

接合強度と修理可能性の両立

バイメタル作品が破損した場合、修理工程はモノメタル作品より格段に複雑になる。銀部分だけをロウ付けし直すつもりで加熱すると、近接するK18継ぎ目が再溶融する。修理工房がシルバーの標準加熱プロファイルで作業すると、隣の金側が壊れる。このリスクを顧客に説明し、かつ将来の修理を可能にしておくには、接合部の位置と数を設計段階で最小化しておくことが最も有効な方法になる。

Crystal Mistralでは、バイメタル作品に対して制作仕様書を1点ごとに保管し、修理依頼が来たときに参照できるようにしている。仕様書には使用したロウの種類(銀ロウの硬度区分、金ロウのカラット)、接合温度の目標値、ロジウム層の厚みが記録される。日本の貴金属修理の実務では、持ち込み修理時に素材情報が不明なケースが多く、仕様書の有無が修理の成否を左右することがある。

現場で積み上がった判断基準

シルバー925とK18を組み合わせる判断は、デザインの好みより先に素材の物性から始まる。線材の断面積、板材の厚み、石留め部分にかかる力のベクトル——これらを確認してから、どの位置に接合部を設けるかが決まる。Crystal Mistralで現在制作しているバイメタルのリングシリーズは、接合部を指の内側(パームサイド)に集中させた設計を採っている。着用時の接触圧が最も低い位置に継ぎ目を逃がすことで、物理的な剥離リスクと電蝕リスクを同時に下げる試みだ。

2024年秋以降は、接触面の形状そのものを変更し、平面接合から嵌め込み構造(スロットジョイント)に移行したパーツも出てきた。銀のフレームにK18のインレイを埋め込む形にすることで、接触面積を増やしつつ電解質の侵入経路を曲折させる。現時点では耐久テストの途中にあり、3年後の結果待ちだ。

バイメタルジュエリーの技術的な課題は、どれも「完全に解決した」と言える状態にならない。素材の組み合わせが変われば問題の比重も変わり、新しい石や仕上げ方法が加わるたびに変数が増える。Crystal Mistralで現在進行中のスロットジョイントシリーズの評価が出るのは、早くて2027年の春になる。

#シルバー925#K18#バイメタル#ロウ付け#ジュエリー制作

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